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魔物の世界と人間の世界の交流がなくなるまで、人間は魔物を恐れていたはず。それなのに。
疑問を浮かべたまま、ウートは更に先に読み進んで行く。つらつらと、ただ説明文として刻まれているこの世界の歴史。
ウートはただ、目を瞠った。そういうことかと、思ったから。
「オフィエルは、魔物ではない。……魔法使いだ」
この世界にいるはずのない、魔法使い。しかも、黒の魔法という高度であり、かなり珍しい魔法を使う魔法使いだったようだ。それが、初代魔王の姿である。
「そもそも、この世界に魔物は存在していなかった。……魔物は、オフィエルの弟、スカイラーの魔法研究によって創り出された、魔法使いと人間の」
成れの果て。
魔法で出来た物という意味から、魔物と呼ばれたと書かれている。
オフィエルの弟、スカイラーもまた優秀な黒の魔法使いだった。兄を慕い、兄の力になろうと研究に打ち込んで。
悲しい結果を招いてしまった。
「オフィエルは魔物となった者達が他の魔法使いや人間から迫害されることを恐れ、ニース大陸の中心に彼らを誘導した。そしてそこで自らも彼らと同じ魔物となり、彼らの王、魔王を名乗った」
それが、初代魔王オフィエルの誕生であり、魔物の世界の始まり。
「……そして人間の世界では、魔法使いや人間たちから黒の王と呼ばれていたオフィエルを失い、争いの時代が始まったんだよ」
「……父上」
背後から聞こえて来た声に、ウートははっとそちらを振り返る。
エヘカトルは嬉しそうな笑みを浮かべて、入って来た扉を閉めた。「さすがウートだ」と、呟きながら。
「もう見つけてしまったんだね。……そう、これが、本当の魔物の世界の歴史。私たちだけが引き継がなければならない、記憶だ」
私たちだけが引き継ぐ、記憶。
そう口の中で繰り返せば、エヘカトルはこくりと頷き、「そうだよ」と呟いた。
「二百年程前までは、誰もが知っている記憶だった。魔物も、魔法使いも、人間も。互いに互いを理解し、ある程度の距離を置くことで、衝突を緩和していたんだ」
スカイラーが行おうとしていた魔法の研究はそもそも、人間や魔法使いの基礎的な体力や力、能力を、自然界の動物の力を借りて飛躍的に向上させることを目的としていた。結果的にその研究は失敗に終わり、魔物となった人々は著しく気性が荒くなったという。力が全てという、現在の魔物の原点でもあるだろう。
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