魔王の日々

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 加えて、臣下たちがそのことに対して探りを入れようとしても、くつりと笑って返すだけ。相手に相応しい女性をと紹介しても、忙しいと言って一蹴される。魔王となってすぐからそのような状態なのだから、城下町だろうと辺境の村だろうと、誰もが知っているという状態なのであった。  女に興味がないわけじゃないはずなんだがなぁ。  女性を前にしたウートの視線は、どこか淋しげに見えて。例えるなら、親を失った子供だろうか。まるで、誰かの面影を捜しているような。  脳裏に浮かぶのは、いつか偶然見かけたとある光景。諦めきれないのかもなぁなんて、そんなことを思った。 「陛下の計らいでソス山脈から水路が引かれ、こんな辺境の村も快適に水を使えるようになりました。道が整備されて行商も増え、足りない物もすぐに補えるような環境になり、加えて、フィリス様がこうして毎年冬を越すための備蓄の確認までしてくださって。陛下の民であることを、皆が誇りに思っています」  「いつも民を思ってくださる陛下の幸せを、皆が願っております」。  そう言う役人の表情は、とても優しく真摯なそれで。フィリスはくすりと笑って頷いた。「そう、伝えておくよ」と応えながら。  ウートが魔王となったこの五年の間に、魔物の世界では様々な変革があった。もちろん、エヘカトルの代から引き継ぎの事業も多く存在していたが、ウートはそれを効率的にまとめ、より城から遠い場所から進めることを決めたのだった。  城に近い町や村は、先代より前の代の魔王たちもまた目が届いており、魔物達が集まってくることもあって早い段階で河川の整備や道路の整備など、確実に必要なことは終わっていた。しかし各方面の、特に北方面のソス山脈に近付けば近付くほど、臣下たちの目も届かず、自治体に割り振られた予算ではとてもじゃないが河川の確立などできるはずもなく。取り分けこの北の端にある村は冬になると孤立してしまうため、早い段階で手を打つ必要があったのだ。  だが、臣下たちとしては金銭が多く流れる城下町を中心に物事を進めたかったようで。ウートと臣下たちの対立は、魔王として立って一年目にはすでに明るみに出ていた。  もっとも、それらの対立は全て、エヘカトルから意図して引き継がれたようなものだったが。
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