***ハイツつきまとい女自殺事件

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なかなかロマンチストな文章だと思いますでしょう。これを彼の部屋のドアポストに差し入れました。この後私は命を絶ったわけですが、まだ彼との出会いについて話していませんでしたね。彼とは私の働くクリーニング店で出会いました。彼は殆ど汚れていない様なスーツとネクタイを毎月3回ほどクリーニングに出しに来ました。いつだったか、私は彼のスーツのポケットに何か紙が入っていることに気づき、取り出したことがありました。ポケットにものが入っていては洗えませんからね。取り出した紙は、彼が初めてこの店を利用した時のレシートでした。私は何気なくレシートの裏を見ました。すると、ボールペンで何やら書き込んであったのです。 「いつも綺麗にしてくれてありがとう。」 私は驚きと喜びとで困惑しましたが、涙がぽろぽろと零れて彼への想いに気付かされました。それからというものの、私は彼のレシートに返事を書いたり、彼について知ろうと彼の友達と仲良くなったり、それはそれは努力したと思います。けれどその努力は大して報われませんでした。私は遂に自分の中で積もっていくだけの愛に疲れ、結果として死を選んだのです。 先程言いましたが私はクリーニング店で働いていました。察しの良い方ならお気付きかと思いますが、私を私が殺した凶器は彼のネクタイです。青と緑が若々しく精悍な彼を思わせるネクタイです。彼がいつもの様にクリーニングに出したネクタイをこっそりと持ち帰り、彼の部屋のドアノブに括りつけました。遺書も差し入れた私はこれ以上に無い幸せな顔で、彼の香りのするネクタイに首を掛けました。 これが私の死んだ経緯です。私の死んだ理由は彼への愛。彼の記憶に棲みつき、生き続けるために死んだのです。 素敵でしょう。
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