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この国は、何かと神様を生みだしすぎだと思う。
例えば、いま僕の隣を歩いて通り過ぎたのは、ウォーキングの神様だ。
ウォーキングしたいと思った時にはどこからともなく現れて、望めば一緒に歩いてくれるし、効率のいい歩き方や靴の選び方を教えてくれる気の良い神様だ。
あっちのベンチで休んでいるのは、休日出勤の神様。
適切に休日出勤が命じられているかを見張り、不当な休日出勤を命じる経営者に警告を与えている。頑張って休日出勤をする人にささやかな幸福を授けるのも仕事だとか。今日は平日だからのんびりしてるみたい。
ふと、目の前を歩いていた男の人がポケットから携帯を取り出す拍子に、何かのチケットを落とした。
するとどこからともなく手が現れて、そのチケットを拾って男の人に手渡す。男の人は一瞬驚いていたけど、それが落とし物の神様の手だと気づき、慌てて御礼を言っていた。落とし物の神様は落とし物を拾って持ち主に届けてくれるのだ。
チケットを落としてすぐ現れたということは、あの人はよく落とし物をして、神様のお世話になっているんだろう。腕だけが現れたのはあまりに頻度が高いから腕だけ飛ばしたとかそういう理由かな。
万物万象に神様は宿りうる。
この国では希望者がなりたい神様を申請して、被りがなければ神様になれる。
何の神様にでもなれるけど、無条件でなれるわけじゃなく、それに対する一定の経験・知識が必要だ。
さっきのウォーキングの神様は元々ウォーキングが好きで、趣味が高じて神様になったパターンだし、休日出勤の神様はかつて存在したというブラック企業の社員で毎週休日出勤している内に神様になれる資格を得たとか。落とし物の神様は取得物集積所で長年働いてたから、だったかな。
わりと簡単になれるようで、そうでもない。
それがこの国の神様事情だった。
そしてそんな国で僕は、何の神様になろうか迷っていた。
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