十年雨

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 数日後の夜、なぜか、家族は重苦しい雰囲気のなか、粗末な食事をしていた。今日は、米がほとんど入っていない、重湯のようなおかゆだ。皆、押し黙って、おかゆをすすっている。誰一人、言葉を発することはなかった。母親が、箸をおくと、急に席をたち、お勝手のほうに口を覆いながら駆けていった。お母ちゃんは気分でも悪いのだろうか、と佳代子は心配した。  「なんで、なんでうちの佳代子なんよ。」 その夜、佳代子は母親のそんな呟きとむせび泣きで目がさめた。 兄たちと、布団を並べて寝ていた佳代子は、こっそりと布団を抜け出し、ふすまを薄くあけると、隣の部屋を覗き見た。  父親の深刻な顔がこちらを向いており、背中を向けた母親の肩が震えている。母ちゃん、やっぱり気分が悪いのだろうか。 「うちが、佳代子を隠していたのがバレてしもうたらしい。はす向かいのゲンさんとこの息子が、うちから佳代子が出てきて、一緒に遊んだことをうれしそうに話したそうだ。」 「あれほど、出るなと、きつく言ってたのに。ゲンさんとこの息子も、なんで話したか!」 「子供に罪はねえ。いつかは、バレることだったのかもしれない。」 幼い佳代子には、意味がわからなかった。 「今時、こんな風習バカげてるよ。山の神様に、女の子を捧げなくちゃならないなんて、そんなバカなことがあってたまるか!」 固く握った、母親の手が真っ白になり、いくつもの涙が畳に落ちた。 「村の昔からのならわしだから、仕方ない。」 父親がうなだれると、母親は泣いてしがみついた。 「ねえ、アンタ、この村を出よう?今すぐ、逃げよう?」     
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