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山の神なんていやしない。人は自分の罪の意識をごまかすために、山の神の所為にして、子や親を捨てるのだ。
幼い佳代子の足は、もどかしいほど遅かった。
「こねな、夜中に、子供だけで、どこに行くだね。」
目の前に、誰かが立ちはだかった。
その男は、この集落を束ねる、庄屋だった。
吾作と佳代子はあえなくつかまり、家へと送り返された。
その夜、庄屋が佳代子を迎えに来た。
堪忍してくれと、両親は懇願したが、佳代子は庄屋の男に手を引かれると、山の方へと連れていかれた。
「佳代ちゃん、おじさんがいいところに連れて行ってあげるけな。そこに行けば、まんまがたんと食えるでな。」
嘘だと佳代子は思った。でも、佳代子は庄屋の目が恐ろしくて逃げられなかった。
佳代子が逃げないように、手はしっかりと握られている。
どんどん、暗い山道を登っていき、ある祠の前に来ると、庄屋は佳代子の手を放した。
「悪く思わんでくれ。これで、山の神様のお怒りが鎮まって、村に雨を降らせてくれるだろう。お前は、ここにいなくてはいけないよ。そうでないと、この村は干上がってしまって、お前の家族も村もみんな滅びてしまうのだよ。」
自分に言い訳をするように、庄屋の男は、後ろを振り返らずに佳代子を置き去りにすると、一目散に山を下りてしまった。
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