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真っ暗な山の中、佳代子は走って、お庄屋さんのあとを泣きながら追ったが、幼い子供の足では、とうてい追いつくことなどできない。仕方なく佳代子は、来た道を引き返した。佳代子は幼いながらも必死で、生きる道を探した。一晩、この祠の前で体力を温存して、朝日とともに、山を下りれば帰れるかもしれないと考え、祠の前で丸くなり、じっとしていた。薄い着物に素足に草履で、真冬の山の中へ捨てられたのだから、最初は、寒くて歯の根も合わないほど震えていたが、しばらくすると、佳代子はどうしようもなく眠くなった。そのまま、佳代子は祠にもたれて眠ってしまったのだ。
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吾作はその夜眠れなかった。
佳代子が連れて行かれたあと、すぐに後を追ったが、再び村人に阻まれて、連れ戻されてしまった。
おそらく、両親もほかの兄弟も眠れぬ夜を過ごすのだろう。
吾作は、佳代子の生まれた時のことを思い出していた。
産婆は、佳代子を見て、すぐに青ざめたのだ。
「この子は忌み子だよ。」
そう呟いた。女の子が産まれたというだけでも、佳代子の運命はもう決まっていたというのに、さらに、佳代子の背中には、蝶々の幼虫のような模様のあざが点々とあったのだ。
畑で見た芋虫のようだと、吾作は思った。しかし、妹は天女様のように可愛らしかった。
庭で、吾作のあとをお兄ちゃんお兄ちゃんとついて歩いた佳代子のことを思い出すと、涙が止まらなかった。
吾作は朝を待って日が昇るころに、こっそりまた山へと向かった。
吾作は走った。早く、佳代子を迎えに行かなければ。
吾作がようやく、山の神の住むと言われる祠についた時には、佳代子はもう冷たくなっていた。
「佳代子、起きろ。朝だぞ。」
肩を揺さぶると、佳代子の小さな体がゆっくりと横に倒れた。
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