十年雨

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十年雨

 佳代子とその家族は、貧相なちゃぶ台の上の皿にそれぞれに一つずつ、細い芋が配られた夕飯をポソポソとかじっていた。母親はすまなさそうに、つぶやく。 「ごめんねえ。今日はこれだけなんよ。ずーっとここんとこ、日照りが続いて、畑の作物は実らんし、米も今年は、ならんかったんよ。」  佳代子には四人の兄がおり、佳代子は末娘だった。生活が苦しいというより、その村全体が貧しかった。もともと、土地がやせているため、作物はすぐに天候の影響を受ける。唯一、実ったものといえば、この細い芋以外にはなく、細々と、これで食いつなぐしかなかった。  佳代子は、この家から出たことがない。家の敷地内に、生まれてこのかた、ずっと幽閉されていた。両親からは、決して家から出てはならないと言われ続けた。佳代子の唯一の楽しみと言えば、裏庭に来る鳥を眺めたり、季節の移ろいに咲く花を眺めることだけだった。表では、子供たちの遊ぶ声がする。佳代子には、生まれてこのかた、家族以外の者と交流を持ったことがない。親戚縁者が来ると、佳代子は納屋に閉じ込められた。     
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