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雨の匂いに、青く甘い匂いがまじった気がした。 さっと立ち上がった時、さあさあと雨が降る音が耳奥に忍び込むように聞こえてきた。 締め切っていた障子を開けると、窓いっぱいが青黒い。 塗り込められた窓の向こうが、一瞬だけぬらりと室内の電灯を反射するように光った。 重い窓を開けた。 ざああっと激しい音がして、目の前にある何かがものすごいスピードで動いた。 風圧と水しぶきが室内になだれこんだけれど、構わずに身を乗り出した。 「龍琉(たつる)」 声が弾んだ。 それに応えるようにして、目の前が急に開けた。 冷たい夜気がさあっとなだれこむ。 空から無限に降り続く小さな雨粒は、まるで謳うように周りを満たす。 白くけぶるほどに降りしきる雨。 その間を縫うように目をこらした。 「風邪をひくよ、水華(みずか)」 不思議と辺りに響き渡る声がした。 心配だと言わんばかりの言葉。 その端に喜びが滲んだ気がして、胸の奥が震えた。 「龍琉があたためてくれるんじゃないの?」 両腕を窓の外に差し伸べた。 雪のように白く細くなった腕を雨粒が叩いて、しとどに濡らす。 少し火照った素肌の体温を雨が少しずつ奪っていく。それが今は気持ちいい。
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