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仕方ないなあと呟きながら笑う声が聞こえた。
雨にまじる匂いが濃くなった。
部屋の明かりが届かない向こうの雨と闇。
その境界をこえて見せてくれるその姿を待った。
ぼうっと地面に投げかけられた光の円に、裸の足先が現れて、すぐに全身が現れた。
首筋を流れ落ちるほどに長く波打つ髪は、青黒い闇のよう。
十代と思しき少年が闇の中からとけだすように現れた。
まるで作りもののように一ミリの狂いもないかのように整った、恐ろしいほどにきれいな顔の持ち主だ。
彼は差し伸べられた華奢な腕を絡め取るように手を伸ばし、窓へと近づいた。
「ああほら……、やっぱり少し熱がある」
少し困ったような顔で、彼は窓から身を乗り出した水羽の頬に触れた。
「だって」
龍琉と会える日は、数少ないのに。
すねたように、水華は俯いた。
さらりと流れた黒髪は濡れたように艶めいて、龍琉の腕に甘えるように絡んだ。
「呼べば来ると言ったじゃないか」
「だけど!」
「水華が呼べば、僕は、雨が降っていなくても水羽のもとに来るよ」
そう言って、龍琉はそのまま水華の頬を両手で包みこんだ。
誘われるように顔をあげた水華の瞳と、龍琉のまっすぐに強い瞳が結びつく。
水華の背後から溢れる電灯を跳ね返すように光る、刃のように鋭い銀の目。
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