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その瞬間、雨が、風が、2人を濡らすことを恐れる生き物のように避けた。 「雨、雨、降らせよ、雨、降らせ……」 龍琉がかすかに抑揚をつけて謳うように呟いた声に、水華は静かに目を閉じた。 そしてその後を引き継ぐように、言葉を紡いだ。 「龍國の娘がうしろを苗床に、咲かしゃんせ、緋の花ぽつり」 龍琉が水華の体を抱きしめた腕の力を強めた。 「例え狂い死んでも……」 苦しげに龍琉はつぶやいた。 でもそれは水華の耳に届く前に、ごおっと激しく降る雨と風の音に吸い込まれていった。
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