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しもべの本当のお役目
あれから7年、すいじん様のしもべとなった僕は18歳になり、高校生活を楽しむどころではない忙しい毎日を送っている。
毎朝、御社のまわりを掃き掃除して、清潔な布で石の社を拭き清め、お供えをあげて拝む。
それから学校に行って、授業が終わると急いで帰宅し、すいじん様の身の回りのお世話をする。
御社の扉を開けると、どういうシステムかは知らないけど、どデカい神社みたいなお屋敷に繋がっていて、すいじん様はそこで自堕落な日々をお過ごしだ。
家事全般と、訪問者の取次にもてなし、すいじん様の話し相手、などなど僕の仕事は山のようにある。暑ければ扇子で風を送ったり、寒ければ火鉢と湯たんぽで暖かくしてやる必要もあり、はっきり言ってめんどくさい神様だった。
「おまえがしっかりやらないと祖父の命はないものと思え」
すいじん様は、寝そべってせんべいをかじりながら僕を脅す。
自堕落に暮らしているくせに、この神様は7年前と比べたらとんでもなく美美しい姿になっている。
青黒かった顔色は、一生懸命お祀りするようになったら次第に良い色になってきて、今では女優も真っ青なほどの美白ツルスベ肌だ。おっかなかった表情も豊かになり、よく笑うようになった。
着物は手洗いして糊をきかせてあるのでパリッとして清潔だし、長い長い黒髪もまめに洗ったりクシで梳いてやってるので艶々している。
「わかってますよ」
おじいちゃんの命を助けてとお願いしてしもべになったのだから、僕は一生この神様にお仕えしなければと思っていた。
たとえおじいちゃんが寿命で亡くなったとしても、お役御免とばかりに逃げ出すつもりはない。
大変なこともあるけど、僕はすいじん様が嫌いではないのだ。
「そろそろ、わしの妻になるか?」
すいじん様はそう言ってニヤニヤと笑った。
「高校とやらも、次の春で終わるのだろう?」
絶句する僕のつるんとした喉元を、神様は白魚のような指でつついた。
「いつまで男装を続けるつもりじゃ?」
「知ってたんですか!?」
「わしを誰だと思うておる。これでも神の端くれだぞ」
神様は得意げな顔をして笑った。
「おまえの身を捧げよ、と言ったのは、そういう意味じゃ。命ある限り、大切に愛でてやろうぞ」
そして、次の年の春、僕はすいじん様の花嫁に迎えられたのだった。
(おわり)
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