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その旧家の神を、今一番大切に世話しているのは、その家の次男だという。
その家は、そもそもが昔からの豪農で広い田畑を持ち、そこで育てられる作物の豊穣を祈る為に、その神を祀るようになった。
祀られた神は農業の神であったが、その家は今から三代前の当主の頃から、徐々に住宅や駐車場にする為に田畑を潰していき、現当主になった時、ついに一坪の畑も持たなくなった。
そうなると、 農業の神など必要ない。出入りの庭師が屋敷内の庭を整えるついでに、祠周りの手入れなどもしておいてはくれたが、お供えなどもされなくなり、祠や鳥居は傷んでいくまま、放置されていた。
その状況は、その家の次男が就職を期に都内のアパートから実家に帰ってきたことで、変わった。彼は大学で宗教学を学び、院生にまでなっていた。結局、就職したのは宗教とは全く関係の無い職種の会社だったが、しかし彼は、立派な「スピリチュアル男子」として、実家に帰ってきたのだった。
彼の帰還により、祠、鳥居が補修され、また神Pを順調に伸ばし始めた旧家の神だったが、次男の屋敷神に対する行いに、当主はいい顔をしなかった。
当主は、役に立たないものばかりに気をとられ、恋人の一人も連れてこない次男に不満を持ち、そんな事ばかりしていると、敷地内の祠を潰してアパートにするぞと言い出したのだった。
「それは、どこにでも似たような話があるものですね」とカミサマは言ってみたが、正直、旧家の神は自分よりもずっと危機的な状況にあるように思われた。
「それで、あなたは色々な方に良い案はないかと聞きまわっておられましたが、その中で、何か私たちの状況が変わるような知恵は得られましたか?」
「それは、ありませんでした。しかし、今あなたのお悩みを聞いて、私は、なにか解決策を見出せそうな気がしてきました」
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