カミサマ・サバイバル

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 それから数ヶ月してから、娘は婚家へと引っ越して行った。  引っ越しの日の朝、これからも度々様子を見に来ると娘は言ってくれたが、カミサマはその言葉にあまり期待しなかった。たかが数百メートルの場所とは言え、人は日常目に入らないものについて、すぐに忘れてしまうものだからだ。  これからまた、冬の時代が来る。そして永遠に春はこないのだと絶望していたカミサマだったが、意外な人物が彼を救ってくれた。  それは、現当主だった。  カミサマを疎んじていた当主だったが、娘が無事嫁入りし、更に嫁入りした先が近所だったことが嬉しかったのだろう。朱印帳が婿殿との間を取り持ったことで、神様というものにご利益と、それ以上に感謝したい気持ちを感じたのか、マメにカミサマの祠周りを整えてくれるようになった。しかし、たまに現当主が「親父、ありがとう」などと呟くこともあり、カミサマはその度、手柄を横取りされたような気分になったが、カミサマの存在は先代の思いつきあってのものなので、そこは目をつぶることにした。  そのうち、カミサマの小祠は、縁遠かった娘が玉の輿にのった家の神社として、近所で有名になり、それがネットで拡散された。  そのおかげで、カミサマの家の玄関先には全国から良縁を願う女子がやってくるようになった。賽銭箱も置いていないのに彼女らが祠の前に小銭を置いていくようにもなり、それは当主が扱いに困るほどの金額になった。  こうしてカミサマは順調に神様ポイントを積み上げながら、今日も住宅地の一角で元気に神様をしている。
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