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「……それにしても、今日は随分と疲れているみたいだね」
そう言われて、私は首を傾げた。
確かに仕事帰りで少し疲労感はあるが、それほど身体がしんどいわけではなかった。
「いや、疲れているはずだよ。身体もそうだけど、心がね」
こういう時、大抵彼の言うことの方が正しかった。彼は私よりも、私の心の内が良く見えるからだ。
私は一つ、ため息を吐いた。
目の前には星空と、それを鏡のように映す凪いだ湖がある。
私はふと思った。
星になりたい。
空であんなに輝けなくても良いから、湖の中に揺蕩う、あの星になりたい。
「それは……」
私の心を読んだ彼は、珍しく言い淀んだ。
「……できなくもないよ。でもそれは、君に人の生を捨てさせることになる」
彼の様子からして、今私が思ったことは、どうやら私の本音のようだった。
本当にそんなことができるのなら、それは私にとって、とても魅力的なことに思えた。
「できるよ。君がその身体を捨てて、こちら側に来てくれるなら。正確には、君を星にするんじゃなくて、あの星たちと一緒に君も揺蕩うことができるようにするんだけど。この湖でね」
私はやはり、それはとても素敵なことのように感じた。
「君には、迷いがないんだね」
彼は寂しそうな嬉しそうな、なんとも複雑な表情で言った。
私には彼の心は読めないが、その代わり彼はよく話し、表情も豊かで、感情を読み取りやすくしてくれていた。けれども、今回のこの表情は初めて見る。
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