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湖に星と沈む
その夜、私は星を見に湖のほとりまで出掛けていた。
一人で考え事をしたい日には、いつもそうしていた。
その日は雲もなく月もなく、夜空は満天の星で輝いていた。
凪いだ湖の中でも、星が光っていた。ほんの少し風が吹けば湖面が揺らいで、星は水中を泳いだ。
時折、わずかに風が吹いて木の葉を揺らす以外に音はなく、辺りは静寂に包まれていた。
そんな中で星を眺めていると、私はこの世界にたった一人、存在しているような気持ちになる。それは恐ろしいことではなく、私の心を凪いだ湖のように穏やかにしてくれた。
それからもう一つ、私がここに来るのには理由があった。
「こんばんは。今夜は特別星が綺麗だね」
ぼんやりと湖を眺めていると、後ろから声をかけられる。振り返らずとも、声でいつもの彼だとわかった。
彼こそが、私がここに来るもう一つの理由だった。
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