湖に星と沈む

1/4
前へ
/4ページ
次へ

湖に星と沈む

 その夜、私は星を見に湖のほとりまで出掛けていた。  一人で考え事をしたい日には、いつもそうしていた。  その日は雲もなく月もなく、夜空は満天の星で輝いていた。  凪いだ湖の中でも、星が光っていた。ほんの少し風が吹けば湖面が揺らいで、星は水中を泳いだ。  時折、わずかに風が吹いて木の葉を揺らす以外に音はなく、辺りは静寂に包まれていた。  そんな中で星を眺めていると、私はこの世界にたった一人、存在しているような気持ちになる。それは恐ろしいことではなく、私の心を凪いだ湖のように穏やかにしてくれた。  それからもう一つ、私がここに来るのには理由があった。  「こんばんは。今夜は特別星が綺麗だね」  ぼんやりと湖を眺めていると、後ろから声をかけられる。振り返らずとも、声でいつもの彼だとわかった。  彼こそが、私がここに来るもう一つの理由だった。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加