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神様斡旋所
神様斡旋所なる聞くだに怪しい店のはなしを、私は大学で同じサークルに属す男から聞いた。
駅をはさんで大学の反対側に広がる学生街の目抜き通りから三ブロック向こう、いつ営業しているとも知れぬ雑貨屋や地下酒場や得体のしれない個人事務所が点在する寂れたエリアにその店はあるのだという。
営業するのは十月だけだと彼は言った。
十月は神無月、八百万の神々はみな出雲へと詣でている。しかし出雲大社に通じる霊界の道の通ったこの土地では神々を呼ぶことが出来る。そして普段は己の属する領域を護っている神々もこのときだけは、無関係な者の願いにも応じてくれる、云々。
熱を込めて彼が語るのとは対照的に、私は冷めた心地で話半分に聞き流していた。
もとより怪しげなオカルトの類は好きではない。
考えたことといえば、彼が面倒に巻き込まれなければいいな、という程度である。
十月になったら絶対に店を尋ねると彼は息巻いた。
神様を斡旋してもらったとして、どうするんだと私が投げやりに尋ねると、彼は心底呆れたふうに私を見た。
――勿論、願いを叶えてもらうに決まっているだろう。
何をと尋ねれば、いろいろあるさとの答え。
高いんじゃないかと指摘すると、最低でも百万は要るらしい、と白状する。
彼にそんな貯金はないのを知っている私は、さては借金を申し込まれる流れかと身構えるが、彼はにこにこしながら言葉を継いだ。
――大丈夫、一度だけ無料にしてもらえると、店主から言質を取ってある。ただし、何の神様か選べないらしいが。
運良くお前の願いを叶えてくれる神様に会えるといいな、とその日はそこで別れた。
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