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十月半ばのある日、久々に彼を見掛けた。まひるの喫茶店、冷めたコーヒーに口をつける様子もなくつまらなそうに雑誌に目を落とす彼に、件の店には行ったのかと私は尋ねた。
行った、と彼は短く答えた。
それならなぜ、こんなにうだつの上がらない様子なのかと興味を覚えて質問を重ねると、彼はついに不機嫌そうに白状した。
全く駄目だった、と彼は言う。
意気高く店を訪ね、神様を選ぶクジを引いた彼に店主が引き合わせたのは祝日の神だったという。
それは一体どういう神なのか、首を傾げる私に彼はこう説明した。
――毎日を祝日に変える神らしい。
一瞬、それは悪くないのではないかと思ったが、彼にはそう思えないらしい。
――平日限定の激安牛肉丼がなくなったら、俺は飢え死にするよ。
私は我に返った。それは私にとっても死活問題だ。
彼はまだぶすぶす文句を言っていたが、そもそもタダで神様の力を借りようという根性がいけなかったのではないか、と私はひそかに思った。
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