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お姉さまが本を読んでいる姿を見ているだけで夜になってしまった。帰る時間だった。このまま帰っていいだろうか。嫌な予感がする。私にできることはないかもしれないけれど、私はお姉さまを放っておくことができなかった。家の外でこっそりと見張ることにした。
数時間、何も起こらなかった。待つのは得意だったが、このまま待っても意味がないかもしれない。そろそろ日付も変わりそうだった。所詮、嫌な予感がすると言うだけの話でしかない。私は帰ることにした。
ちょうどその決断をした瞬間、家の玄関の扉が開いた。お姉さまが姿を現した。顔には一切の表情がないのに、目だけ生命力にあふれギラギラと輝いているように見えた。肩には旅行用の大きなバッグをかけている。お姉さまは音を立てないようにそろそろ歩いて、家の門を開け、どこかへ向かって進んでいく。私は帰るのをやめ、その後をつけた。
お姉さまは夜の闇に紛れて黙々と歩く。足取りは軽い。迷う様子はなく、目的地へ向かって寄り道せずに進んでいるようだった。
十五分ほどすると河川敷に出た。月明かりに照らされ水面がうっすらと見える。川の水量は多くない。辺りは静寂に包まれているため、水の流れる音が優しく奏でられている。堤防の下には川まで十メートルほどの距離があり、昼間なら雑草が生い茂っているのが見えるところだが、今は深い闇が広がっているだけだった。
お姉さまは堤防上の道を歩いて橋のそばにある階段を下りていく。そこで初めて足を止めた。バッグを下ろして中を漁っている。何かを出した。しばらくすると薄明かりが灯った。ランプのようなものだ。その後、お姉さまはバッグの中から白い塊を抱え出し、バサッと地面に広げた。
白い布だった。一辺二メートルほどの正方形で、布には赤茶けた色の文字がビッシリ書いてある。日本語でも人間の文字でもない。読めない。そして、お姉さまは布の中央にあのおぞましい本を置いた。
私は闇の中からお姉さまの行動を見守っている。
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