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それは口を開いた。身体に似合わない巨大な口だった。口の中も暗黒で牙も舌もない。口はお姉さまの頭に近づいて噛みついた。お姉さまの身体から頭部が消失した。首の切断面からビュウビュウと血が噴き出しているが、それは暗黒のままで血に染まることはなかった。
お姉さまが殺されてしまった。化け物に食われてしまった。私はそれでも、それだからこそ何もできない。
それは闇の中に潜んでいる私を一瞥した。しかし、すぐに興味を失い、お姉さまの身体を口にくわえた。今度は身体が千切れることはなかった。それはお姉さまの身体をくわえたまま本の上に乗った。ずるずるずると麺類をすするような音がして、化け物もお姉さまの身体も本の中に飲み込まれて消えてしまった。本は血塗られた白い布まで吸い込んだ。さらに、自分自身を吸い込んだ。本の中央にある穴のようなものに本自体が吸い込まれて、何もかもがなくなってしまった。
残ったのは、お姉さまが持ってきたバッグと周囲を照らすランプだけだった。
私は深く息を吐き、家へ、学校へ帰った。
私は星鈴女学院の守り神。私が力を行使できるのは学校の中だけだ。外では何の力も持たない。何も手出しはできない。できるのは見守ることだけ。無力なのだ。
もし、もしも、これが学校の中だったら、私はお姉さまを守ることもできたかもしれない。救ってあげることができたかもしれない。だけど、それは無意味な仮定だ。お姉さまは、もう、悪しきモノに食われてしまった。大好きなお姉さまはもういない。存在しない。学校の外では、どうしようもなかったのだ。
さようなら。可哀想なお姉さま。
さようなら。大好きなお姉さま。
さようなら。
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