ハレの日

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 だが、そんな日々もあとわずか。「娘」はもうすぐ「妻」という存在になり、私の手から離れてしまう。  ジューンブライドに憧れていた娘は、よりにもよって『父の日』に嫁に行くのだ。  結婚式当日は、朝から雨が降っていた。 「天気予報が当たっちゃったわねぇ」  妻と娘が並んで窓の外を眺めている。背格好の似ている二人はそうしていると姉妹のようだ。私の入る隙間はない、と思ったら、つい、嫌味を言ってしまった。 「梅雨入りした上に、台風まで来てるから仕方ないだろう。ジューンブライドなんて日本の気候には合ってないんだ。こんな時期にやるほうが悪い」  娘が振り返り、ジロッと私を睨んだ。 「いや、まあ、雨でも『ハレの日』なんつってな」  渾身の親父ギャグは聞き流され、娘は一足先に式場へ向かった。  かすかに期待していた、ドラマに出てくるような「お父さん、お母さん、今までお世話になりました」という場面はなかった。  娘たちの結婚式は人前結婚式、というタイプだ。「チャペルの結婚式のように花嫁と父親が後から入場する段取り」と言われたため、妻は先に会場に入り、私はドアの前に置き去りにされた。  一層激しくなった雨が窓を叩いている。  涙雨、という言葉がふっと浮かんだ。悲しみの涙が雨になってしまう、というアレだ。     
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