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この映画は異例の大ヒットとなっているらしい。私もやっと、観に来ることができた。
何せ、本来なら上映されることはなかっただろう問題作だ。そういうものって、人はやっぱり気になってしまうもんなんだろう。野次馬根性ってやつだ。私だって、部外者なら嬉々として観に来ていたかもしれない。
実力派若手女優、柳佳奈美の遺作。彼女がこの作品を心から楽しみにしていたからという理由で、これはこうして全国で上映されている。つーか遺作じゃないから。意識不明なだけだから。ふざけたこと言いやがって。誰だよ。まったく。
そんな謳い文句でやってくるなんて、皆物好きだ。こんなクソ映画。
佳奈美、どうしてそんなに楽しみにしていたの?
「みすず。わたしね、この映画が完成するの、すごく楽しみなんだ」
撮影で疲れていた佳奈美に膝枕をしてあげて、頭を撫でながら話をしていた時に、嬉しそうに笑って言った。なんだか久々に、佳奈美の笑顔を見た気がした。
「そう?」
「神様にお礼を言いたいくらい」
「そんなに?」
「うん」
「どうして?」
「それは完成してからのお楽しみだよ」
ねえ佳奈美、わかんないよ。教えてよ。スクリーンを見たって、何も見えないんだ。
神様なんて信じない。信じたって救われない。信じなくても救われない。
だって神様なんていないんだから。
私を救えるのは、佳奈美だけだよ。そういう意味では、佳奈美は神様なのかもね。
なんて、笑えない。見てられない。
エンドロールが流れる。劇場が暗くなる。文字の光だけが、虚しく流れていく。終わるまでに冷静になろうと呼吸を整えて、なんとか間に合ったと思ったら、私の知らないシーンがまだ残っていた。
それは、恋人の男が、昔撮った動画を見つけて、動く彼女を見るだけのシーンだった。海辺で風に髪を弄ばれながら、歩いている彼女は、はにかんだように笑った。
「愛してる」
そう言って、彼女は、佳奈美は、小指で二回、丸を書いて見せた。
了
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