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「うん。いいよ」
「ほんとに? やった! ありがとう!」
だからオーケーをもらってかなり嬉しかった。
一応体験入部をしてもらって、次の日には正式に入部してもらった。女声が少なかったから私は先輩や先生に褒められたし、佳奈美の歌声も聞けるしでかなり有頂天だった。
だけどしばらくしてから、誘ったくせにこんなこと言えたもんじゃないけど、なんか違うなぁと思い始めた。何が違うのかわからないもやもやのなか、また授業で佳奈美の音読を聞いてはっとした。私別に歌っている声が聞きたいわけじゃないなって。いや歌うまいし声も綺麗なんだけど、私の求めてる佳奈美はこれじゃないって肩を落とした。
それでも、誘ったおかげで仲良くなれたし、話していれば声は聞ける。中学三年間はそれでいいかと納得をした。
中学の時の佳奈美は人と関わるのを最小限にしたい人で、だけど最初に話しかけたからか、私にだけはそれなりに懐いてくれて、パートは違ったけど、一緒にいることが多かった。パートが違うから、立ち位置が遠くなって、そんな時は私たちは、小指たてて丸を二回空中に書く秘密の挨拶をしていた。
二人で色んなところに行った。といっても、お小遣いの範囲内だから、そんなに遠くには行けてないけれど、忘れられないのは、中学二年生の夏休み。
夏休みも部活で忙しかったけど、その合間の休みと夏祭りが重なったから、二人で浴衣を着て遊びに行った日。甘い匂い、香ばしい煙、ぼんやりと灯る明かりに、たくさんの人、話し声に泣き声、笑い声。現実感のないなかで唯一確かだったのは、握った手と、初めて見た、はにかんだ佳奈美の顔だった。
本当に素敵な瞬間って、写真に撮ることはできないんだなって、その時知った。
そこから私は何かヒントを得た気がして、だけど答えが出るのは、あわただしい部活が一段落して、本格的に受験に向けて腰を据えた時だった。見学に行った高校に、演劇部があることを知った時だった。
ああ、佳奈美を最大限に輝かせるのは、舞台かもしれない。外は悪天候で、雷が何処かに落ちたのと同時に、私の脳内でも稲妻が走った。これしかないと思った。
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