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ボクは未来にいた。 どうやってここに来たのかは知らない。 この時代の人にとっては、ボクは『過去の人』 未来人たちは親切で、ボクが過去から来た事も素直に信じてくれた。 なぜなら彼らが知らない“過去の生き証人”だから。 特に歴史学者はボクにいろいろと質問をしてきた。 ボクはそれに答えるだけ。 そして自分達の立てた仮説の裏付けや訂正をする。 「私達にとって君は神様だ」と彼らは言ってくれた。 頭が良くもないし、スポーツ万能でもないし 顔は十人並みで目立たない。 こんなボクでも彼らの役に立てた事が嬉しかった。 未来はとても居心地の良い場所だった。 だけど。 ボクは自分の時代に帰ってきた。 どうやって帰ってきたのかもわからない。 未来に行って知った事が2つある。 あと数十年もしたら世界は大変な戦争時代に突入する事。 そして地球上の人口は3分の1に減る事。 あの未来は、戦争後に頑張った人達の成果だった。 これが映画や漫画のヒーローだったら、戦争にならないよう努力するし 同じ意思をもった仲間を集めるだろう。 でもボクにそんな力はない。 戦争は起こるし、人も大勢死ぬ。それは動かない事実なのだ。 だからボクはボクにしかできない事をしようと思う… -------------- やがて戦争が始まり人は大勢死に、残された人々は途方にくれた。 指導者のいない国々は荒れ、様々な混乱を引き起こしていた。 そこへ現れたのは数名の若者。 彼らは疲弊した人々を助け、食料を与え、住む場所を提供した。 やがて国は平静を取り戻した。 彼らは安心し、違う国へ行くと言った。 人々は彼らとの別れを惜しんだ。何故ここに留まらないのかと。 すると彼らのリーダーが一冊の古い本を取り出した。 何回も読み返したのか、とてもボロボロになっていた。 それはSF小説で、 未来に行った若者がいろんな人と出会い現代に戻ってくる話。 そこには戦後の混乱や暴動、徐々に解決されていく過程が書かれており 小説というよりは実際にあったかのような書かれ方をしていた。 とても面白いとは言えない退屈なものだが、 シチュエーションは今の状況そのものだった。 この小説のどこが好きなのか?と誰かが尋ねた。 「最後の一文が好きなんです」とリーダーはその箇所を指差した。 『未来が希望に満ちていると知っていたならば、私達はまた幸せになれる』
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