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しかし少年が戸惑いの中にあっても、冷遇されているわけでは決してなかった。
少年が生まれ持った少々複雑な生い立ちについても、新しい家族は否定的な言葉を落とさなかったし、不必要な詮索もしなかった。
その事に少なからず引け目を感じていた少年にとって、それはこの上なくありがたいことだった。
もっとも……先日十二歳になったばかりの少年が知っている自らの生い立ちなど、たかが知れているのだが。
--婚姻関係のなかった両親の間に生まれ、若すぎた母親は、あっさりと育児を放棄し赤ん坊だった少年を父親の元に残し家を出た。
頼みの綱の父親も、ほどなく少年を実家に残して姿を消してしまった。
そんな身勝手な大人の事情に振り回された出生。
その後は父方の祖父母が親代わりとなり育ててくれた。
それでも少年にとっての幼い日々は、決して不幸なものではなかった。
確かに事情を知る他人の好奇の目に晒されることが多かった日常は、幼心にも不快でしかなかったが、それを差し引いても余りあるほど、祖父母との生活は少年にとって愛情深いものだったからだ。
その厳しくも暖かい……陽だまりのような愛情を、誰よりも少年が身に染みてわかっていたし、それがすべてであり、最良だった。
今となってはその日々も遠い記憶の中にしか存在しない訳だが。
「一さん……」
そっと目を開け、水面に浮かんだ花びらを見つめながら、少年は生前そうしていたように「おじいちゃん」ではなく、祖父の名前を小さく呼んだ。
もちろんそれは、返事を求めてのものではない。
目まぐるしく変化する環境の中にいても、そう呼べる存在がまだ心の中にいることを確かめたくて、呟いたのだ。
突然の祖父の他界からたった一人の引っ越し、小学校の転校。
その小学校も三学期を過ごしただけで、先日無事に卒業式を終えた。
もうすぐ――あと数日で新学期を迎え中学に進学する。
また自分を取り巻く環境は大きく変わる。
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