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----------。----げよ。俺----面を--。
誰かが自分を呼んでいる。呼び声は音ではない、痛みだ。
それが言葉を重ねるたびに鋭い頭痛がこめかみを突き刺した。モールス信号に似ている。ツーツー、トントンと頭の中を直接細い針でひっかかれているような不規則な痛みに明は呻いた。両手で頭を抱えると、側頭部を走る血管が皮膚ごしでも分かるほど脈打っている。それに呼応するようにつま先のしもやけも鈍く痛んだ。
「なんと言葉が変わっておったのか、これなら分かるか?」
おい、聞こえるんだろう? 呼び声は次第に言葉、声となり痛みは遠ざかる。声? 来館者が自分だけだったはずだ。展示室を見渡しても、部屋の角に座る監視員以外は誰もいない。彼が声をかけてくるとは思えない。
「上だ、上。上を見ろ」
「うえ?」
上には展示ケースがあるばかりで誰かがいるはずはない。ガラスケースの反射で自分の丸い影が映っている。その向こうには彫刻1体、それしかない。
「ナイショだぞ」
いつもは微睡み、閉じられているそれの瞳が開いていた。明と視線を合わせるなり、彼は口の端をニイッとつり上げて笑った。
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