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丹塗りの鳥居
丹塗りの鳥居が一つあった。
山の中にある小さな鳥居なのでずいぶんと遠くからでも目立つものであったが、山の中とは不思議なもので近くへ探しに行こうとするほど見つけられない。
やっとのことでたどり着いた鳥居は随分と古ぼけた色をしており、遠くでみるよりも襤褸に見える。鳥居の向こうには小さな祠があった。
随分と小さなそれは朽ちかけていて、果たして中に何があるのかと子供たちは興味を持っていた。
子供たち。彼らは山の麓の子供たちであった。やはり遠くからは鮮やかに存在感を放っていた鳥居をいつも見ていた。御山には神様がいるからねと大人たちはいつも言うし、子供たちもその言葉をよく聞いていた。
かちゃんと錠前を外す。祠にかけられていた鍵も随分と長い間手入れがされておらず、錆びて、壊れていた。子供たちの指の力では少々の苦戦はしたが、その時間にさえ子供たちはどくどくと鼓動を高めていた。
中には何もなかった。果たして、そのことに子供たちは肩を落としただろうか。いや、こどもたちは驚きのあまり後ろへと飛び退って、しりもちさえついた。
何もなかった。なかったが、祠の扉を開けた時にひゅると風が吹いた。
子供たちはそれに大層驚いて、後ろへと飛び退ったのである。足をもつれさせて、しりもちをつき、それから這う這うの体で走って帰っていっては、母に、父に、祖母に、祖父に、兄に、姉にと口々に話した。
大人たちはいけないよと注意をしながら、そんな彼らの言葉にやさしく笑い子らの頭を撫でたのだった。
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