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──いいか司。
お前は立派な弁護士を目指すんだ。
小さな諍いから大きな事件まで、勝て!とにかく勝つんだ。
まるで、目の前の墓石から聞こえるようだ。
俺の親父……金刺 法明は、法曹界で名を馳せた弁護士だった。
百戦錬磨で連戦連勝、多くの弟子を持ち、名誉も手にし。
『検察殺し』なんて物騒な二つ名をつけられた俺の父は二年前、脳卒中であっけなく死んだ。
そんな親父と、息子である俺の話を少ししよう。
俺の家は父子家庭だった。
といっても親父とは一日数回言葉を交わせば良い方で、かなり冷めきった関係だった。
夕飯も作らず、金を渡して好きに買ってこいと言って放置。
授業参観なんて来なかったし、運動会や合唱コンクールも『裁判がある』と言って仕事を優先するようなヤツだ。
そんな親父のもとに生まれた俺の運命は決まっているわけで。
弁護士になる以外の道なんて用意されているわけがなかった。
休日外に連れ出してくれたかと思えば、『現場を見て勉強しろ』と言って、親父の出る刑事裁判の傍聴席に座らされる。
誕生日プレゼントは六法全書。
遊ぶなんてことは許されず、常に法律についての勉強を強いられる。
俺の休日はいつも潰れた。
そのせいで趣味も持てなかった、友達とも遊べなかった、彼女もできなかった。
俺は都内にある国立大学の法学部へ進み、司法予備試験を経て司法試験を受け、合格。
晴れて弁護士になる。
しかし親父の事務所で働こうとした矢先に、親父が倒れた。
俺は親父の遺言に乗っ取り、金刺弁護士事務所を継ぐことになった。
別に親父を恨んじゃいないけど、家族とも思っちゃいない。
教師と生徒ですら良好な関係を築けるのに、俺と彼は、とてもじゃないが親子と呼べる距離感ではなかった。
表現するのが難しい、なんとも微妙な関係であった。
それほど遠くない記憶に思いを馳せながら、俺は墓に菊の花束を添えた。
ただただ他人事のように、誠に遺憾です、と心で呟いて。
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