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『本日、黒鉄 鋼死刑囚の死刑執行が確定しました──』
不意にカウンターに備え付けられた小型のテレビに視線をやると、お昼時のワイドショーが流れていた。
どうやら、とある囚人の死刑執行が決定されたという報道らしい。
聞いていてあまり気分の良いニュースではないが、手持ち無沙汰だったのでなんとなく眺めてしまう。
「黒鉄 鋼って……なんか鉄鋼みたいな名前してんな」
元々『くろがね』なんて苗字なのに、下の名前を『はがね』にしようだなんて、狙っているとしか思えないようなネーミングセンスだ。
まぁ、リズム感があるというか韻を踏んでいるというか、覚えやすい名前ではある。
俺の呟きを聞いていたのだろう、いつの間にかカウンターの方へ戻ってきた銅島さんがご飯をよそいながら呟いた。
「7年前、甲子園を風靡した天才投手と謳われ、鋼の投手なんて二つ名もあった。俺も一目置いていた選手だったよ。まぁプロになることなく引退したがな」
「へぇ、すごいやつだったのか」
「あぁ。けど2年前──銀崎財閥の重役夫婦を殺したとして、死刑になったらしい。ありゃ衝撃だったなぁ……」
──銀崎夫妻殺人事件。
かなり残虐な事件で、少し前に話題を呼んでいたのを微かに覚えていた。
確か、銀崎財閥の取締役の夫妻が、あるパーティー会場のトイレで全身ズタズタにされていたという酷い事件である。
そう遠くもない記憶に思いを馳せていると、目の前でコトンと皿が置かれる音がした。
どうやら定食が出来上がったらしい。
小皿に盛られているのは自家製だというキュウリの漬物である。
そして程よく焦げ目のついた鮎二匹と、俺好みのふわりと甘い卵焼き、しっかり味の染み込んだ肉じゃが、綺麗に立った米。
胃の辺りがきゅうっとなるくらいに空腹だったので、すぐに箸を取った。
「いただきまーす!」
決して豪華とは言えない素朴なメニューだが、口に含めば一品一品に込められた職人技を理解出来るはずだ。
決して手を抜くことなく、出汁もしっかり取って工程を何一つ省いていない。
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