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「不思議と痛みがないんだ、余命宣告までされたというのに」
病室での友人の言葉を思い出した。
少しやつれた頬に、夕方の日差しが影を落とし込んでいた。
見舞いに行くと彼は決まって、とても嬉しそうな顔をした。
もう何十年になるかという付き合いだったが、子供の頃から無邪気なところは変わらなかった。
「ほら、食べたいと言っていた角の肉屋のコロッケだ」
「おお、ありがとう! 味気のない病院生活に花が咲くよ!」
「……お前」
「はははは、気にするな。 ただのフラワージョークだ」
彼はそう言ってコロッケをパクついた。
そうしているととても病気には見えず、私より気楽そうなのが癪に触る。
私は彼の病のために、こんなにも心を傷めているというのに。
「相変わらず、雨の日は見舞いに来ないんだな。 梅雨入りしてから久々に見たぞ」
「雨で病気が進行するんだろう。 どうせなら、元気な時に会いに来るのがいい」
コロッケを食べ終えた彼は「そりゃ違いないね」とげっぷをした。
その普段通りの姿に、いつまでもこうして過ごせるような錯覚に陥る。
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