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「どうせ殺されるのなら、知ってる花がいいなぁ」
ふと彼は言った。
「どこぞの外来種に命をやるのはどうも気が進まないが、これが小さい頃にむしった花だったら、まあ、因果応報というやつだ」
「そんな事を考えるな。花が咲く前に枯れてしまうケースもあるそうだ」
「医者もそう言っていたよ。何の花が咲くかは、死ぬまで分からんともね」
病室の机を見ると、花の絵が描かれた本が小さく積まれていた。
花言葉、日本の植物、季節の花ーー
中には、花咲病患者の闘病日記も混じっていた。
「ああ、それか。片付けるのを忘れていたな」
取ってくれ、と頼まれた一冊を友人に渡す。
彼は、いくつか付箋や折り目のついたそれを、パラパラと捲った。
「躍起になって調べているうちに、花が好きになってな」
彼は言った。
「何とか治してやろうと思ったのがきっかけだったんだが、今際の際になって、俺の命を吸って咲くのが、どんな顔してんのか見てみたくなった」
闘病日記よりもただの花の本の方が、積み上げられた数も多く、手垢もついていた。
私は何も言えなくなって、黙って一冊を開いた。
「それ、お気に入りなんだ。 挿絵が綺麗で、育て方とかも書いてある」
「……ああ、綺麗なもんだ」
お前を殺そうとするそれらは確かに綺麗で、それが私にはたまらなく苦しかった。
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