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「花咲病」の患者は開花とともに死亡する。
老人では咲ききる前に衰弱死するケースが多いそうだが、彼のような若い体を苗床にすると、花は綺麗に咲ききるという。
開花に身体の養分をすべて奪われるため、咲いた花を彼が目にすることはない。
つくづく残酷な疾患だと思った。
「なあ」
ぼーっと花の本のページを眺めていた私に、彼が声をかけた。
いつになく真面目な声に、私は思わず姿勢を正した。
「お前が見てくれないか。 俺の死んだ時、どんな花が咲いているのか」
彼は続けた。
「あの世にいる俺に伝えろとか、墓に手向けてくれとか、面倒なのはいい。 ただ見てくれるだけでいいから」
縁起でもない、と言おうとして、何とか飲み込んだ。
彼の顔つきは、そういう薄っぺらい言葉を許さなかった。
「どうして俺に頼むんだ」
聞くと彼は一瞬、物凄く悲しそうな顔をして、それからおどけて笑った。
「ま、こうして約束でもしておかないと、お前は通夜にも来ないだろうからな」
「それは……約束というより、呪いみたいなもんだな」
彼の表情の真意を問えないまま、私はそう答えた。
そう言うと彼は「呪いか!いいな!」と手を叩いて笑った。
それから三度の雨が降って、友人は死んだ。
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