花咲病

5/7

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ
「花咲病」の患者は開花とともに死亡する。 老人では咲ききる前に衰弱死するケースが多いそうだが、彼のような若い体を苗床にすると、花は綺麗に咲ききるという。 開花に身体の養分をすべて奪われるため、咲いた花を彼が目にすることはない。 つくづく残酷な疾患だと思った。 「なあ」 ぼーっと花の本のページを眺めていた私に、彼が声をかけた。 いつになく真面目な声に、私は思わず姿勢を正した。 「お前が見てくれないか。 俺の死んだ時、どんな花が咲いているのか」 彼は続けた。 「あの世にいる俺に伝えろとか、墓に手向けてくれとか、面倒なのはいい。 ただ見てくれるだけでいいから」 縁起でもない、と言おうとして、何とか飲み込んだ。 彼の顔つきは、そういう薄っぺらい言葉を許さなかった。 「どうして俺に頼むんだ」 聞くと彼は一瞬、物凄く悲しそうな顔をして、それからおどけて笑った。 「ま、こうして約束でもしておかないと、お前は通夜にも来ないだろうからな」 「それは……約束というより、呪いみたいなもんだな」 彼の表情の真意を問えないまま、私はそう答えた。 そう言うと彼は「呪いか!いいな!」と手を叩いて笑った。 それから三度の雨が降って、友人は死んだ。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加