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訃報を受け、私はふらふらとした足で彼の実家へ向かった。
思えば、雨の日に彼に会いに行くのは初めてだった。
行く道の記憶はない。
ただ彼との約束だけが、私の身体を動かす理由になった。
「わざわざ雨の中、ありがとうございます」
「いえ、この度は誠にご愁傷様でございます」
小さな頃から知っている彼の母親は、見ない間に随分と小さくなった。
悲しみの最中、式の準備に奔走したのだろう、丸い背中は随分とやつれて見えた。
簡単に挨拶だけを済ませ、奥へと通される。
部屋の中に入り、息を呑んだ。
正面に、たくさんの花に囲まれた白い棺桶があった。
あそこに彼が横たわっている。
私は吸い寄せられるように棺桶に近づいた。
幼い頃からの思い出が、ちかちかと頭の中を照らす。
中では彼を呪い殺した花が、悪辣な顔で咲いているのだろう。
よくも私の大切な友人を奪いやがって。
よくもあんな良い人間を呪い殺しやがって。
ああ、友人に根付いたそれを、怒りのままにむしり取ってしまいたい。
逸る気持ちを抑え、私はそっと棺の窓を覗いた。
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