宮殿

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こうして紆余曲折を経て21世紀へたどり着いた。私の斬首された体はとっくに朽ち果てたが、魂は処刑前の若いままである。まだまだ子供を産めるはずなのに、他の女にうつつになった夫から都合よく消されたのだ。そもそも姦通罪なんて立証しようがない。男ならいいが、女は禁止という浮気のルールが私の時代にはまかり通っていた。 肉体は老化・消滅するが、魂は亡くなった時のまま時空を地球と共に歩む。私は、処刑後もずっと王族の一員として過ごしている。遺骨が寺院にあっても、魂は生きている王族と同じ宮殿の中にいる。 いつのまにか王宮は別の場所に移転して、残された建物は国会議事堂となった。私には政治のことはわからない。そもそも、王妃の世話役や男子を産むのが目的の王妃として生きてたから、政治家としての素養はない。 頭の良いのは私の娘であって、私は生母に過ぎない。私の気がかりは、娘が男子を産まなかったことである。私も孫の顔を見たかったのに、若いうちに斬首されたのだ。それが心残りでこうして王宮に居座っている。 私も好きで地縛霊になったわけではない。男子を産まず、政治にも携わらなかったので霊位が低い。生前の実績がないので、霊界から切り離された。 ここまで言えば、私が誰であるかは知る人ぞ知る。私の自己紹介はここまでにして、私が見たことをここで語るとしよう。 斬首された国王には子供がいた。さらにそれらの子供たちがいた。今語るのは、スチュアート朝最後の女王の話である。もっとも、チューダー朝は娘の死で途切れている。     
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