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気持ちとは裏腹に、俺の変化か、今井の変化か、二人の歯車が狂ってきて休日も会えない日が増えていき、今井は決まってごめんを繰り返す。
そんな時は、あの日の記憶が蘇るから家を一歩も出ない様にした。
俺達は三年になり、最悪な事に俺のクラス担任はまた小松崎だ。
久しぶりに今井と下校が重なった夕暮れ、桜吹雪が綺麗な通学路を歩きながら彼女が遠慮がちに聞いて来た。
「一也君は進路どうするの」
「俺は出版社で編集をやりたいと思ってる。今井は?」
「私も進学。司書を目指すつもり」
「そっか。今井は向いてるよ」
そこまで言うと今井の携帯が鳴った。チラッと見えた表示は小松崎…。
風船が割れる様に、抑えていた感情が爆発するのが分かった。
「どうして小松崎から電話が来るの?」
急に立ち止まった俺の厳しい口調に今井の表情が凍り付いた。
「進路の事で相談があって…」
「担任でもないのにおかしいだろっ」
「ごめんなさい…」
一言だけ呟いて俯いた今井を見て、あの大雪の日の二人の姿を思い出す。
疑惑が確信へと変わっていって、少しずつほつれていった最後の綻びが、音も無く抜け落ちた気がした。
「別れよう」
驚きに見開かれた目がやっと俺を見て、今井の瞳に涙が浮かぶ。
「もう限界なんだ。今井の誕生日、小松崎と一緒にいるところを見かけた。電話で聞いたろ、今どこって。あの時の嘘で俺達とっくに終わってたんだ」
「一也君、いやっ、違うの」
「もう信じられないんだっ。今井も本当に好きな奴と付き合った方が幸せだろ。俺はもう今井の事を好きでいられない…」
掴まれた手を払いのけて、彼女の頬を伝う涙から視線を外す。
そこまで言うのがやっとだった。
それで初めて気付いた。
俺、嫉妬でおかしくなりそうだ。
涙が溢れる前に背を向けて走り出す。
俺を呼ぶ声が聞こえたけど、振り向かずにひたすら走った。
桜の花が散る様に俺の初恋も終わりを告げた。
情けない事に、たかが女一人の事で無気力になって学校もどうでも良くなり、休みがかさむ俺を親友の柏木隼汰が迎えに来て、引きずられる様に無理矢理登校している日々。
何か言いたそうに声をかけて来た今井を二、三度シカトして平静を装ってたけど、彼女の残像がいつも俺を支配していてトイレに駆け込んでは何度も吐いた。
しばらくして小松崎の婚約が解消になったと噂で聞いた。
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