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その日から想いは急加速して、気が付けば今井を全身で意識している自分がいた。
まさか活字嫌いの俺が図書室に通うなんて思わなかったけど、そこで今井と会ったんだ。
「一也くんも本読むんだ」
「え、名前…」
「みんながイチヤって呼んでるから。つい。気を悪くしたならごめんなさい」
そう言って本棚の続く通路を奥へと消えた。
気が付いたら足が勝手に走り出していた。
「今井っ」
誰もいない図書室の奥、本棚の影に埋もれた後姿は小さく震えていて、あの朝の泣き顔が頭をよぎった。
どうにもならなくなった感情が暴走して華奢な肩を掴んで抱き寄せた。
「少しでいいから、こうさせて」
震える肩と小さい嗚咽、痛いくらい悲しみが伝わってきて、二人でしばらく世界を拒絶していた。
「あの、一也君…。もう大丈夫だから…」
「ごめんっ」
呟いた声で我に返り、慌てて身体を離すと今井は胸に抱えていた本を差し出して言った。
「これね、先生との思い出の本なの。久しぶりに見つけたら色々と思い出しちゃった」
「先生って小松崎の事?」
「そう。私達、付き合ってたの…。でも、もう終わった事だから」
「まだ好きなの?」
「...うん。忘れたいのに、どうしても忘れられない」
今井の表情がギュッと歪んで、俺の心臓が強い力で握り潰された様な気がした。
抑えきれない痛みを隠す様に彼女を再び抱きしめた。
「今井が好きだ。今は小松崎が好きなままで良いよ。ただ泣き顔くらいは隠せるだろ。いつか必ず、俺が好きだって言わせてみせるから。だから俺にしなよ」
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