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「待てって!」
「一也くんっ…!」
急いで追いかけたけど、以外と足が早い。
やっと追いついた所で腕を掴むと、ぐしゃぐしゃの泣き顔で崩れ落ちる様に座り込んだ今井を、近くの公園のベンチに座らせた。
自販機で買った缶コーヒーが手の中で湯気を立てていて、少し落ち着いた様子で静かに話し出した。
「中学一年の時、図書館で偶然同じ本を探していた人がいて、それが先生だった。それから時々会う様になって、本の趣味が同じだったからすぐに仲良くなった。付き合い始めてしばらくした頃、先生が教育実習生としてうちの中学に来たの」
「待って、俺、小松崎の事知らないよ」
「うん。そこの中学で先生との事が問題になって、二年の梅雨に私は転校した。だから一也君は知らないの」
「そっか、今井と同じクラスになったのは三年だったな」
「さっきの人はカナさん。先生に、私と付き合う前から彼女がいるなんて知らなかった。カナさんに引き裂かれるように終わってしまったから、高校の入学式で再会した時は驚いた。あの朝呼び出されて、結婚が決まったけど別れるつもりでいる、だからやり直してほしいって言われたの。そこで一也君が教室に来た」
「…」
「先生の事は好きだったけど、もうカナさんに関わりたくなかったから断った。今は一也君が大好き。でもカナさんに同じ高校だってバレてしまった…。今度は一也君にも迷惑がかかるかも」
また泣き出しそうな今井を抱き寄せた。
「大丈夫、何があっても俺が守るから」
いつの間にか降り出した雪が今井の髪に触れては溶けていく。
今井の悲しみも、この雪と一緒に消えてなくなればいいのに。
どれくらいそうしていたんだろう。 顔を埋めたまま今井が小さく呟いた。
「クリスマスプレゼント、変更していいかな」
「うん」
「乃亜って、名前で呼んでほしい」
「えっ!」
驚いて身体を離すと、教室で見つめられた時と同じ、深い色の瞳が俺を射すくめる。
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