初恋

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「他の女の子は名前で呼んでるでしょ。どうして呼んでくれないのかなって、ずっと気になってた」 「いや、それは…」 この目は俺から思考を奪う。 このままじゃダメだっ。 離れた身体を強引に抱き寄せて耳元で白状した。 「今井が好きだからだよ。他の女なんて目に入らないくらい、今井が好きだ。だから…」 「うん」 「だからっ、恥ずかしくて呼べないんだよっ。何度か呼ぼうとしたけど、顔見るとどうしてもダメなんだ」 そこまで一気にまくしたてると今井はクスクス笑って言った。 「じゃあ、このまま呼んで?今なら顔見てないから大丈夫でしょ?」 「…」 「一也君?」 「…乃亜」 「...もう一回呼んで」 「...ダメ、俺、もう限界」 「プレゼントでしょ?最後でいいから顔見て呼んでほしいな」 「あー、もうっ!最後だからなっ」 期待に満ちた目が俺を見つめる。 「乃亜が好きだよ」 「私も。一也君が大好き」 クリスマスが嫌いになりそうだ。 こんなに気持ちが昂る恋愛なんてしたことない。 恥ずかしさを隠すために少し乱暴なキスをした。 もう何度もしてるのに、初めてした時以上に頭が熱っぽい。 「メリークリスマス、一也君」 そう言って微笑んだ今井は天使の様だった。 結局、カナさんは何もしてこなかった。 二年生になり、あっという間に二度目のクリスマスも過ぎた。 年が明けてすぐ、今井の誕生日。その日はまれに見る大雪だった。午後からのデートに備えて、サプライズでプレゼントを買っておこうと出かける支度をしているところに携帯が鳴った。 「おはよう」 受話器から聞こえてきたのは、珍しく沈んだ調子の今井の声。 「一也君ごめんね。お母さんが熱出しちゃって、これから病院に行くから今日は行けなくて」 「分かった。この雪の中大変だな、病院付き合おうか」 「大丈夫、タクシー呼んじゃうから」 「そっか。会えなくて残念だけど、お大事にして」 「ごめんね、この埋め合わせはするから…」 「気にしなくていいって。誕生日は改めてお祝いしよう」 何度もごめんを繰り返して今井は電話を切った。どんな用事でも今までドタキャンする事なんて無かったのに珍しいなと思ったけど、予定通り俺は一人で家を出た。
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