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正直に言ってしまえば、仕事に遅れる口実ができるので、幸運といえば幸運だけど、どうせ職場で時間に余裕をもってだのあらかじめ知ることができなかったかだのと言われるのがオチなので、これも不幸だろう。
バスはクーラーが効いているけれど、どうにも効きすぎなように感じる。
少し窓を開け、外の空気を入れる。流れ込んでくる風は熱っぽいが、クーラーで冷えた身体には心地よい。
バスは少しずつ進んでいく。その横を自転車が通り過ぎてくのをぼんやりと見つめていた。
夏が輝いて見えていたのは、いつまでだったろう。若いころから夏は好きな季節ではなかったけれど、夏には不思議な輝きがあった。暑くて、テンションが上がった連中が騒いで、プールや海だと盛り上がる。
僕は外れたところからそれを見ていた。いつも誰かの陰口しか言わないようなやつも、夏場だけはこれからどう過ごすかということばかりを話していた。夏休みという巨大なイベントがあるからだろうけど、今にして思えば、学生でも社会人でも、休みがこころに余裕と優しさを生むというのは変わらないんだなと感じる。
バスがまた進む。こんどはそこそこの距離を進んだ。流れ込んでくる熱風が強さを増す。風が強くなると、熱風でも少しは涼しい。
そろそろトンネルに入るから、窓をしめようと思った時だった。
「おーい!」
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