輝きもいつかは

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 という声が響いた。学生だろう。とても大きな声だ。僕以外の乗客も、開いた窓から入ってきたその声に反応するほどだった。  バスはその声を横切り、トンネルに入った。バス内が暗くなると同時に、頭の中でフィルムが回りだす。学生の声。周りの目なんて気にしない、真っすぐな叫び声。  それに呼応するように、薄くなった記憶がその明度を増し、くっきりとその輪郭を見せ始めた。  夏。はた目から見ていたその輝かしい季節。僕は、あの時の僕は、たぶんその輝きの中にいた。  あの夏だけは、確かに輝いていた。  薄暗いトンネルの中で、頭の中のフィルムが回り始める、まるで、映画が上映されるように。  中学のころの話だ。  僕は本を読むのが好きで、夏休みには毎日図書館に通っていた。  本を読むようになったのは、祖父の影響だった。  影響と言っても、祖父はそこまで本を読む人ではなかったのだけど、とにかく映画が大好きな人だった。  筋肉をこれでもかと見せつけるアクション映画から、アートシアターギルドが製作したアート映画までなんでも観ていて、僕もまたいろいろな顔を見せる映画の世界に魅せられたいった。     
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