輝きもいつかは

5/12
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
 ここでこんな曲を使おう。ここではあえてクラシックを使おうなんてことを考えて、まるで映画監督のような気分だった。僕は映画用に百円ショップノートを数冊買い、そこに自分が考えた映画について書き連ねていった。  夏休みに入ると、ロケハンをした。  ここではこんな風に撮れる。ここではこんな演出が映える。それがとても楽しくて、夏休みの間に映画用ノートは五冊以上になっていた。  中学二度目の夏休みには、本格的に映画の脚本とコンテを作り始めた。中三の夏休みに自分の映画を撮ると決めたのだ。父親からビデオカメラを借り、自分だけの映画を作るんだと意気込んでいた。  そして、迎えた中学最後の夏休み。映画のために真面目に中学生活を過ごしてきた僕は、推薦がもらえることはほぼ決定していて、映画に集中できる環境にいた。  父親からカメラを借り、いざ撮影へ向かう。  キャストは僕だけ。少年の心と、ありふれた街の風景が重なり、言葉ではなく画で感情を語る映画だった。  しかし、撮り始めてみると、まったくうまくいかない。最初は家庭用カメラのせいにしていたけど、だんだんわかってきたのは、自分の想像を画にすることの難しさだった。  そもそもにして、当時は編集だって今のように簡単にはできない。自分の理想の映画を作ることは、とても大変なことだったのだ。  誰でもすぐ気づきそうなその事実に、僕は実際映画を撮り始めて初めて気が付いた。     
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!