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いざ撮り始めてみると、うまくいかないことばかりで、疲れてしまった。理想通りのものがいきなり撮れるわけがないのだけど、自分のイマジネーションはもっと良いものを生み出せるはずだと考えていたので、いざ実践してみてここまでだとやる気も削がれてしまった。
「うまくいかなかった?」
「……はい」
「そっか。でも、最初は誰だってうまくいかないものだよ。何年、何十年かけて、ようやく少しはマシになるっていうのが、写真とか映像の世界なんじゃないかな」
「だけど、それじゃいつまでたってもプロになれないじゃないですか」
生意気なことを言ってしまったと思ったが、女性は優し気な表情を浮かべ、自分のカメラを抱える。
「なろうと思ってなれるものじゃないんだよ、きっと。いろいろな要因が重なって初めてなれるものなんだと思う。表現の世界ってさ、そこにたどり着くためのギフトを見つけて、それと引き換えにチケットをもらうことで初めて入り口に立つことが許されるんだと思うんだ」
遠くを見つめている女性の目は、沈みかけた太陽ではなく、さらにその先を見つめていたように思えた。見えない景色を求めて、そこを目指して歩く。それはとても恐ろしいことだ。
「将来さ、もし君がプロの映像作家になって、私がプロのカメラマンになってたら、ここで会おうよ。ちょっとくさい約束だけど」
「無理じゃないですか? お互いにのことなにも知らないのに。今日初めて会ったわけですし」
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