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「夏の終わりにここで会えばいいじゃない。で、お互いが夢をかなえたら、そこで初めて自己紹介するの」
「夏の終わりていっても具体的には……」
「うーん。じゃあ、夏休み最後の日。八月三十一日に、ここで会う。どう?」
「別にいいですけど、そんなにすぐ夢なんか叶えられるんですか」
「どれだけ時間かかってもいいよ。十年でも二十年でも。お互いの進捗報告会もかねて」
「……まあいいですよ」
ぶっきらぼうにそういったけれど、僕の心は浮足立っていた。女性と知り合いになれたということも勿論だけど、映画のような約束をしたことが嬉しかった。フィクションがノンフィクションを侵食したかのような錯覚が心地よかった。
「それじゃあ、また来年ここで」
「そう、ですね。またここで」
僕らは立ち上がり、女性は歩き出す僕を見送るようにその場から動かず、手を振っていた。
少し歩いたあたりで、いきなり後ろから「おーい!」という声が響いた。びっくりして振り返ると、女性が手を振っていた。
「がんばれ映画少年!」
「そっちもがんばってください!」
そう言い合って、僕らは別れた。帰り道、僕はずっと鼻歌を交えながら歩いていた。何かが始まるような、そんな感覚だった。ここから、映画のように話が展開していく。そんな予感がしていた。
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