貢ぐ男

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「おい!香苗!」  休み時間、友人達と楽しくお喋りをしていると、その背後から私の頭を丸めた教科書でポンポンと叩かれた。振り返ると、担任の鯨井がいた。 「なんですか?」 「なんですかじゃない。その格好はなんだ。派手なアクセサリーに化粧、どれも校則違反だぞ」  まただ。最近、羽振りがよくなったせいか先生に、特に担任の鯨井に目を付けられていた。 「分かったわよ。とればいんでしょう。とれば」  私は半ば溜め息をついて指輪やイヤリング、ネックレスを外した。そして、それを乱暴に鯨井に押しつける。 「これでいいんでしょう。もう要らないから、それあげるわ」  ちょうど、それらのアクセサリーには飽きていた。この際だから、鯨井に押しつけよう。どうせ、男に頼めばすぐに新しいのを用意してくれるのだから。 「香苗!なんだ、その態度は!」 「うっさいわね。いいでしょう。私には必要ないんだから」  鯨井は目頭を立てて私を叱りつけるけれど、私は無視した。こんなつまらない男に構っているより、なんでも貢いでくれる男の方が多少、パッとしなくても何十倍も良かった。  結局、その日、私の日頃の態度を見かねて生徒指導部の教員が私を生徒指導室に呼びつけた。 「行くの?」  綾子が聞いてきた。 「行くわけないでしょう。馬鹿馬鹿しい」  全くもって、その通り。行くだけ無駄。長々と説教を聞かされるだけ。そんなことで生徒を指導できると思っているのだから、本当に馬鹿馬鹿しい。  全校放送の呼び出しなど無視して私は学校を出る。学校を出ると、いつもの男が私の前に現れる。昨日、私が頼んでいた某有名ブランドの化粧品の一式を持って。 「ありがとう。大切にするわ」  建前上、そう言って化粧品を受け取ると、さっそくマニキュアを指を塗ってみる。やっぱり、高級品は普通のとは一味も二味も違う。色ののりが素晴らしかった。 「それにして、最近は教師達の説教がうるさくなってきたわね」  指先のマニキュアが乾くのを待つ間、私はそんなことをぼやいていた。今、思い出しても腹が立つ。教師だからって、何でやっていいと勘違いしているのではないか。 「あーあ。鯨井や生徒指導の先生。死んでくれないかな?そうすれば、私はハッピーなのに」 などと、私は呟く。
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