0人が本棚に入れています
本棚に追加
え?なぜ余命も僅かなのに、わざわざ病院を抜け出して、樹海で自殺したって?
そりゃあ、どうせ大して時間が残っていなかったしねえ、最後まで病院で足掻いてもよかったんですけど、まあ、抗議の意味もあったんでしょうかねえ。
ええ、周囲の人間には感謝していますよ。妻も子どもたちも色々よくしてくれたし。そりゃあ、完璧な人生なんてありませんから。ああ、あの時もうちょっとこうすれば、なんてことは山程あります。でも、概ね満足ですよ。自分には勿体無いぐらいの人生で、恨みなんてこれっぽっちも抱いちゃいません。
ただね、家族たちは私が死んだ後、弔って墓に納めてお参りするって言うんですよ。これについては結構抗議したんですが、どうも聞き入れてくれそうもない。でも、死んだ後じゃこっちはどうしようもないですからねえ。
いや、自分は今まで何千、何万回も食事をしてきました。まあ、うまいものも結構食べましたが、不思議と貧乏で泣きたい気持ちで食べたものを覚えていたりするんですねえ。いずれにせよ、いろんな生命を食べてきました。だから、こんなちっぽけで痩せ衰えた身ですけど、最後に落とし前だけはつけたかったんですよ。
それに、焼かれて狭い墓に閉じ込められて何にも食べられないなんて、寂しいじゃないですか。それだったら獣にでも虫にでもバクテリアにでも食べられて、食物連鎖の中をグルグル回る方が絶対に楽しいに決まっている。
だから食べられる権利ぐらい、こっちに戻せ、と。
最初のコメントを投稿しよう!