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「九条。彼女は」
「放って置けば落ち着きます。では二人は退出願います」
「この状況で退出すると思うか」
若干怒りを含んだ玉彦の声音に怯む九条さんではなく。
「退出せよ、次代。それとも過保護は父親譲りか」
それはさっきまで私と会話していた柔和な九条さんではなく、厳格な稀人。
澄彦さん以外に玉彦に命令し、頭から抑え込む人を初めてみた。
一瞬にして無表情になった玉彦は、私を抱えてソファーに降ろす。
そして一礼するとまだふらつく豹馬くんを連れ退出した。
「初めてにしては上々上々」
煙草に火をつける九条さんは機嫌よく楽しげだ。
「何が視えました?」
瞼を閉じたまま先ほど視えた一部始終を伝えれば、彼は微かに気配を揺らした。
瞼を上げなくても判る。
それほど今の感覚が研ぎ澄まされている。
「その力は心を持つ全ての者を生かし、また殺すことも出来ます。中に入り無防備な本質を殺せば、身体は生命維持出来ても二度と壊れた心は戻らない。空っぽの生です。そして君が二の世界で視るものはそれを傷つけるだけで消滅してしまうでしょう。ちなみに君に視られている対象はその間動くこと許されません」
二の世界で視るもの。
一の世界では視えなくて、二の世界で実体化しているもの。
では鬼の敷石に封じられている隠はどうなのだろう。
彼らには肉体が確かに在った。
疑問を口にすると、九条さんは即答した。
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