はじまり

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上守比和子。 私の名前だ。 ちなみにお父さんは光一朗で、その弟の叔父さんは光次朗。 ついでにお祖父ちゃんは三郎という。 鈴白村にあるお祖父ちゃんの家の裏山の奥地には、名もなき神社がある。 祀られているのは御倉神(みくらのかみ)。 揚げ好きの、登場するタイミングがいつも残念な紺色の学生服の神様。 名もなき神社は上守の一族がまだ『神守』と名乗っていた頃、そのお役目の為に建てられた。 『神守』のお役目とは、神様の守をすること。 これは守るということではなくて、神様のお相手をするということ。 お世話したり、話を聞いたり、時には一緒に出掛けてみたり。 そうして神様のご機嫌を伺い、神守の上に君臨する正武家(しょうぶけ)の為に祀神が尽力してくれることを願う。 神様の血縁は信じられないくらいに絡み合っていて、祀神の加護を取り付けてしまえばその祀神の子や嫁や親までがたまにそのお力を貸してくれる。 昔はまだ信仰が厚く、また神守の力も残っていたのだけれど、近代になるにつれその姿や気配を感じられる者がいなくなり、神守のお役目は正武家より解かれてしまっていた。 それはちょうど明治維新くらいで、外国から違う宗教が盛んに流れ込んできていた時期でもあった。 それなのになぜか今になって、お父さんが自分では言わないけど神守の力に目覚めてしまっていた。 そして私も。
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