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「な、なんでそうなるのよ!」
「何処の誰であろうと想いは変わらぬ。例えお前が神守だとしても私は変わらぬと以前にも伝えたはずだ」
「じゃあどうして私が澄彦さんに連れていかれた時に黙ってたのよ!」
玉彦は言葉を詰まらせて、私から視線を逸らせた。
「比和子が父上を拒絶せぬから、そちらを選んだのだと……。ならば事案が解決するまでは父上の庇護下にと……。しかし解決後には……と考えていたのだ。けれど日が経つにつれ、己の判断が間違っていたのではないかと感じ……」
沸々と怒りが沸き起こる。
そうだった。
玉彦はそういう人間だった。
私を正武家に巻き込みたくないからって、もう会わないとか言っちゃう人間だった。
自分のことよりも、私が一番安全で笑っていられることを優先しちゃう人間だった。
玉彦の中では澄彦さんのところが安全だって考えたんだ。
私は玉彦の両耳を掴んで引き寄せると、思い切り頭突きをかました。
「この馬鹿玉が! ほんっとあの時から何にも変わっていないんだから! そこは何が何でも私を取り返しなさいよ!」
「しかし、あのとき比和子の安全を第一に考えれば……」
「玉彦にとって私ってそんな簡単に澄彦さんにあげられちゃうものだったの!?」
「馬鹿なことをいうな! だが……」
「だが、とか、しかし、とかもういい! 玉彦はどうしたいのよ」
「比和子に戻ってきてほしい」
「やだ」
私は腕組みをして、部屋の天井の隅を見上げた。
そこには小さな、澄彦さんの奥の間の天井にある月が貼られていた。
私の答えに、玉彦は勿論のこと、澄彦さんも目が点になっていた。
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