第一話 夜行バス乗り場

4/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/26ページ
 いくら名前を呼んでもギンは止まってくれません。首に巻いたマフラーをなびかせながら、ケンタは必死になって後を追います。お母さんとお父さんに続いて、ギンともはなればなれになりたくなかったのです。  駅の近くにある大きな公園を通りぬけた先に、ギンは長いしっぽを立ててチョコンと行儀よく座っていました。じっと何かを見上げている様子です。 「だめだよ、ギン。勝手にはなれては」  ハアハアと息を切らしながら、ケンタはやっと追いつきました。小さな猫の身体をしっかりとだきかかえます。  一体、ギンは何を見ていたのだろう?  ふしぎに思ったケンタは前を見ました。  そこには、とても高いビルがそびえ建っていました。すぐ近くにかんばんがあります。ケンタは読んでみました。 『キラ星タワービル』。 「あっ!」  ケンタは驚きました。ベンチに戻し忘れていたカードをポケットから取り出します。  カードに書かれていたビルの名前とまったく同じなのです。   『夜の十二時にお待ちしております』  とカードには記されてありました。  けれども、ビルはまっ暗。すっかり静まりかえっています。建物の中に人がいるとは思えません。 (誰も待ってはいないよ。きっとイタズラだったんだ)  気味悪く思ったケンタは、ギンを大事に抱いたまま、新宿駅の乗り場へ引き返そうとしました。  すると、その時でした。  ピカッ!     
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!