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タワービルの一階にあかりがついたのです。続いて二階、三階と……順々にあかりがつき始めます。光が下から上へ。まるで打ち上げ花火のように、一つずつのぼっていくのです。
ケンタは腕時計を見ました。
あと五分で十二時になります。
まっ暗だったビルが明るくなったのは、『黄金の船』がやってくる合図なのでしょうか。
「黄金の船に乗って……」
自然とお母さんの顔がうかんできました。
けれども、ケンタは『黄金の船』ではなく、長野行きのバスに乗らなくてはならないのです。
「どうしよう?」
弱った顔でギンを見ました。
ニャア。
ひと鳴きしたギンはまたしてもケンタの腕から飛びおりました。そのまま明るくなったタワービルの中へと入ってしまいます。
ギンには会いたい人がいるのでしょうか?
ケンタも本当はお母さんに会いたいのです
けれども、ここに港はありません。船なんか来るはずは無いのです。
「待ってよ。ギン!」
ケンタはかけ足でギンを追いかけていきました。
明るくなった輝くタワービルの中へと。
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